A.苦しみの意味なんて。
そしてしばらく経つと、冬休みが始まった。
俺は部活に行ったり、ダチと遊んだりして、普通の冬休みをすごしていた。
でもなんでだろうな?
----部活中も、ダチと遊んでるときも、ずっと携帯が気になっている。
誰かからの連絡を待ってるのか?俺は。
気になる意味も当然わからず、俺は、時の残酷さを思い知る。
俺が悠希とゲームセンターで遊んでたある日。
--------本当に偶然だった、一瞬だった。
ふと聞き覚えのある笑い声に、思わず反応してしまった俺は、見たくもなかった光景を目撃する。
「お、あれってー.....」
悠希がその名前を口にした瞬間、俺の足は今歩いてきた場所とは全く別な、反対方向へと動き出した。
なんだよ....楽しそうじゃねぇかよ。
なんて....俺が言ったんだっけ。
何で自分で言ったくせに、いざ見たら悲しくなるんだろうな。
切なくなるんだろうな。
.........お前が恋しくなるんだろうな。
------
それから、何日経ったんだろうな。
リビングのソファに俺は寝ころんでいた。
カレンダーを見ると、23日まで×印が付いていて、24日に赤ペンで大きく○が描かれている。
.....24日......
そうか、今日はクリスマス。
そういや、くすけんと大ちゃん泊まりがけでパーティするとか言ってたな。
楽しそうに大ちゃんの家で話してる2人を想像したら、なぜかすごく腹立たしくなって....俺は携帯をゴミ箱に投げつけた。
ゴミ箱には入らなかったけど、当たった瞬間携帯の着信音が微かに鳴った気がした。
俺はゴミ箱に近づいて携帯を拾うと、メールの受信ランプが点灯していた。
だけど、ボタンをいくら押しても液晶は消えたまま。
真っ暗な液晶に、俺の顔が映る。
なあ.........俺、いま...どんな顔してる?
俺は他の誰でもない、俺自身に問いかけた。
って俺、何やってんだ。
バカみてぇ.......
.
しばらくして、家には俺1人になった。
俺以外、みんな誰かとの約束があるみたいで、おしゃれして笑顔で扉を閉めて行った。
俺は......ひとり。
別に嫌じゃねぇよ、でも...
.
.
--------ピーンポーン
ん、俺....寝てたのか。
つか、こんな時間に誰だよ。
俺は右手を口に当てて大きなあくびをして、玄関に歩いて行った。
腕時計を見てみると時間は、午後3時。
はあ....ほんとに誰だよ。
通販とかか?でも俺、代金引換とかでも金持ってねぇからな....。
ってなるとやっぱり、出なくていいか。
俺が玄関から引き返そうとした瞬間。
------------っ.....亮ちゃん。
その声を聞いた瞬間、俺は鼓動が少しずつ速くなっていくのを感じた。
考えなくてもわかる、扉の向こうに.........
「.....くすけん」
...あいつがいる。
俺が名前を呟くと、聞こえたみたいであいつは声をぱっとあげて扉を叩いた。
「亮ちゃんっ、よかった...やっぱり家にいたんだっ」
声だけで想像できる、あいつの表情。
扉ごしにだけど、よくわかる。
「.....なんで、きたんだよ」
あの時と同じだ.....あいつが近くに来ただけで鼓動が速まって、胸が締め付けられて、苦しくて、痛くて.....。
その原因はやっぱり、くすけんみたいだ。
「なんでって....そんなの、亮ちゃんに逢いたかったから、俺」
少しくすけんの声は震えていた。
俺....そういや、冬休み前もこんなことがあったような。
そうだ、俺が強く言い過ぎて....それでくすけんから笑顔が...
笑顔が.....なくなって..
そうだ、冬休み前のあの日、くすけんに笑顔がなかったのをはっきりと覚えている...
俺は我慢ができなかった。
自分の痛みより、俺が与えてしまった、くすけんの痛みの方が....痛いに........決まってるじゃねぇか。
そう強く思った瞬間、俺の痛みがぱっと消えた。
いや、相変わらず鼓動は速い。
だけど、明らかにさっきとは真逆だった。
全然、痛くねぇ....むしろ、心地よいくらいだった。
--------バンッ
俺が思い切り扉を開けると、くすけんは少し涙目だったけど、俺を見た途端、満面の笑みを浮かべた。
それが今の俺には愛しく見えて、仕方がなくて....
傷つけた申し訳なさと、愛しさとが混ざり合って、俺は玄関から足を踏み出すと目の前にいたくすけんの手を引いた。
「ははっ...くすけん、相変わらず背ちっせぇの」
「なっ、意味わかんね、離せよーっ」
笑いながら言うと、くすけんは俺の腕の中で顔を真っ赤にしながら抵抗していた。
つか、いくら抵抗しても離してって言っても、無駄。
なんでって?俺は気づいたから。
苦しみの意味を。
本当の気持ちを。
だから離さねぇ.....もう、一歩も引かねぇ。
「な、くすけん」
「ん、なにー?」
「今日何も予定ないんだろ?」
「うん、大ちゃんとは明日ー.....」
「それじゃ、今日は俺ん家な?」
俺は意地悪そうに笑って、さっきよりも強く、強く...あいつを抱きしめた。
Today...2013/1/6...End